静岡メンズ外来、担当医師の大石龍之介です。
結論からいうと、現代の主なテストステロン補充療法の方法である
- 経口テストステロンウンデカン酸
- 注射製剤
どちらでも、男性型脱毛症(AGA)が進行する可能性はあります。
しかし、それは「薬そのものが髪を傷める」のではなく、「毛包内でDHT(ジヒドロテストステロン)が増える」ことが主な原因です。また、AGAになりやすい遺伝的素因(アンドロゲン受容体感受性)がある人に限って起こりやすい点が重要です。
Androgen Physiology, Pharmacology, Use and Misuse
なぜテストステロンでハゲるのか?
毛包ではジヒドロテストステロンが最も強力なアンドロゲン
頭皮の毛乳頭細胞には
- 5α還元酵素(Type II優位)
- アンドロゲン受容体
が存在します。
血中テストステロンが増えると、
毛包内でDHTへ変換されます。
DHTはテストステロンよりアンドロゲン受容体への親和性が高く、毛包の遺伝子発現を変化させて、
- 成長期の短縮
- 毛包のミニチュア化
- 毛髪の細毛化
を引き起こします。これがAGAの基本的な病態です。
経口ウンデカン酸ではDHTが比較的上がりやすい
経口TUはリンパ系から吸収されるため肝毒性は少ない一方で、
血中DHTがテストステロン以上に上昇する傾向が古くから知られています。
その理由は、
- 腸管・リンパ組織
- 末梢組織
で5α還元が起こりやすいことが一因と考えられています。
ただし、
血中DHTが上昇したから必ずAGAが進行するわけではありません。
重要なのは
- 毛包の5α還元酵素活性
- 毛包アンドロゲン受容体感受性
です。
「ハゲる人」と「ハゲない人」の違い
これは非常に興味深い点ですが、
AGAは
血中テストステロン値だけでは決まりません。
むしろ
- AR遺伝子
- 5α還元酵素活性
- 毛包のDHT感受性
などの遺伝的要因が重要です。
例えば
- テストステロン 900 ng/dLでもフサフサ
- テストステロン 250 ng/dLでもAGA
ということは珍しくありません。
つまり、
TRTはAGAの「原因」というより、「遺伝的にAGAになりやすい人で進行を加速する可能性がある」
という理解が適切です。
Effects of oral testosterone undecanoate in hypogonadal male patients:Clin Endocrinol (Oxf)
. 1978 Oct;9(4):313-20. doi: 10.1111/j.1365-2265.1978.tb02216.x.
経口テストステロンウンデカン酸で、報告されている副作用
2023年のシステマティックレビューでは、経口テストステロンウンデカン酸(TU)は概ね忍容性が良好で、重大な肝毒性は認められていませんでした。
主な副作用は以下の通りです。
| 副作用 | 頻度・特徴 |
|---|---|
| 赤血球増加(ヘマトクリット上昇) | 比較的よくみられる |
| にきび・脂性肌 | アンドロゲン作用による |
| AGAの進行 | 遺伝的素因がある人で起こり得る |
| 血圧上昇 | 一部の製剤・試験で報告 |
| HDLコレステロール低下 | 軽度の変化が報告 |
| PSA上昇 | 軽度上昇はあり得る |
| 精巣萎縮・精子減少 | HPG軸抑制による |
| 肝障害 | 新しいTU製剤では重大な肝毒性は確認されていない |
注射製剤(テストステロンエナント酸・ウンデカン酸)の副作用
注射製剤は現在もっともエビデンスが蓄積したTRTです。長期レビューでも良好な安全性が示されています。
① 赤血球増加(最重要)
最も注意すべき副作用です。テストステロンは
- エリスロポエチン増加
- 骨髄刺激
- ヘプシジン低下
により赤血球産生を促進します。
ヘマトクリットが54%を超える場合は、減量や休薬が推奨されるガイドラインもあります。
② AGA
機序は経口TUと同じです。
血中テストステロン増加
↓
毛包内でDHT増加
↓
AGA進行
となります。
ただし全員ではありません。
③ にきび・脂性肌
皮脂腺もアンドロゲン受容体を多く持つため、
- にきび
- 脂漏
が比較的多い副作用です。
④ 精巣萎縮・男性不妊
外因性テストステロンにより
- LH低下
- FSH低下
となるため、
精巣でのテストステロン産生・精子形成が抑制されます。
若年で妊孕性を希望する場合は特に重要な注意点です。
⑤ 女性化乳房
一部のテストステロンはアロマターゼによりエストラジオールへ変換されます。
そのため
- 乳房痛
- 女性化乳房
が起こることがあります。
⑥ PSA上昇・前立腺
現在のエビデンスでは、TRTが新規に前立腺癌を増やすという明確な証拠はありません。
ただし、
- PSA測定
は推奨されています。
⑦ 心血管イベント
現在のデータでは、適切な適応・適切なモニタリング下でのTRTは、重大な心血管イベントを一律に増加させるという結論には至っていません。
一方で、
- 赤血球増加
- 高血圧
- 心不全
- 睡眠時無呼吸症候群
を有する患者では慎重な管理が必要です。